裁判例解説

Case: パワハラ問題とその対処法~パワハラは労災の原因となる!~

(名古屋南労基署長(C社)事件・名古屋高判平19.10.31 労判 954-310)

パワーハラスメント(パワハラ)とは

パワハラに関する裁判例が続出しています。従前の裁判例では、「いじめ」などの表現が使われていましたが、昨今の裁判例では、「パワーハラスメント」と表現されるものも出てきました。問題が増えるにつれ、その言葉が定着してきたと言えます。 パワハラとは、「職場において、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること」と仮に定義されています(中央労働災害防止協会)。

つまり、職務上の立場や権力を利用して、立場の弱い者を傷つける行為と言えます。 具体的には、感情的に怒鳴りつける、必要以上にののしる、根拠のない批判を繰り返す、無視する、不当に降格や職位・権限を奪うなどの行為があげられます。

パワハラが発生した場合、企業責任はどうなるか

セクハラのように、違法なパワハラを認識しながら放置した場合や、パワハラを容易に探知できるのに認識しなかった場合、企業の責任を問われる可能性があります。 さらに、パワハラにより精神的疾患等に罹れば、損害賠償責任を問われることがあります。最近のM社のパワハラ事例では、約3100万円もの高額の賠償が認められています(平20.7.2日経新聞記事)。

労災が認められることもある(最近の裁判例)

パワハラを原因としたうつ病などが労災認定されることもあります。最近の名古屋南労基署長(C社)事件は、上司によるパワハラを原因の一つとして、労働者のうつ病による自殺を労災認定した例です(名古屋高判平19.10.31労判954-31)。

そもそも、精神疾患が労災認定されるためには、「業務に起因することが」が認定され、「業務上の疾病」と認められなければなりません。その判断基準の一つに、「業務による強い心理的負荷があったか」があります。 本件では、以下の点について、業務による強い心理的負荷があったとされました。

  • 主任への昇格 被災者の上司Aは、被災者の主任昇格に際し、被災者が能力不足である旨を明記すること命じ、さらに書き直しや、全面的に業務の責任を負うことについても書くよう命じました。その上、Aが被災者に対して「主任失格」と叱責していたことなどにより、通常の「昇格」よりは、相当程度心理的負荷が強かったと判断しています。
  • 上司との関係 上司Aは、被災者に対して「主任失格」、「おまえなんか、いてもいなくても同じだ」などの言葉を用いて感情的に叱責しました。さらに、結婚指輪を身に着けることが集中力低下の原因になるとして、主任昇格後、死の直前まで、複数回にわたって、結婚指輪を外すように命じていました。これらは、何ら合理性のない、単なる厳しい指導の範疇を超えたパワハラだとして、心理的負荷の強い出来事だとしました。

その他、長時間労働も大きな原因とされていますが、単なる部下への指導を超えた、感情的な叱責や合理性のない命令などがパワハラとされ負荷を認めた点が注目されます。

企業の対応

[適切な指導は必要]

上記のような判決をみると、指導に関して臆病になってしまうかもしれませんが、適切な指導であれば、パワハラとなるものではないと考えます。 例えば、三田労基署長(R社)事件では、労災が否定されました(東京地判平15.2.12労判848-27)。

本件では、上司が部下の仕事上のミスを叱責したものですが、この行為は日常社会において通常みられることであり、強い負荷があるとまでいえないとされました。本件の概要をみますと、長期に亘って必要以上に部下を非難し続けるような行為はなく、あるミスを叱責しこれには合理性があり、しかもその後フォローを行うなど、指導と言える範囲のものだと思料します。

[パワハラが発生した場合の対応]

では、パワハラが発生した場合どう対応すればいいでしょうか。これは、厚生労働省発表のセクハラ防止指針を参考に、パワハラに応用した対応が考えられます。 下記に例をあげておきます。

  • 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
    • 相談窓口の担当者などが相談者、行為者双方からの事実確認を行う。
    • 各主張に不一致があれば、状況に応じて第三者からの事実関係も聴取する。
  • パワハラが確認された場合、行為者に対する措置及び被害を受けた労働者に対する措置を適切に行うこと
    • 行為者に対して就業規則に基づく懲戒処分を行う。
    • 被害者と行為者と引き離すための配置転換を行う。
    • 状況により行為者の謝罪を行う。
  • パワハラの再発防止に向けた措置を講ずること
    • パワハラを行った者について厳正に対処する旨の方針をパンフレットや社内HPなどにより掲載、配布する。
    • パワハラ啓発のための研修などを行う。
  • その他
    • プライバシー保護のため、相談窓口のマニュアルを作成する。
    • 相談者や事実関係の確認に協力した者に、そのことを理由に不利益な取り扱いをしない旨を規定し、労働者に周知・啓発を行う。

パワハラは、被害者にとって、働く環境を悪化させるだけでなく、上記の裁判例のように病気、自殺に追い込むことがあります。企業にとっても、周囲の従業員に与える影響ははかり知れず、場合によっては労災や高額の賠償責任を負い、ひいては企業イメージの低下を招くことにもなります。さらには、加害者にとっても、被害者の病気や自殺に直面すれば、深く後悔することになるでしょう。

このように、パワハラの悪影響は甚大です。企業はパワハラに関し、未然防止、早めの探知、発見をしたら迅速・適切に対応するなど、今すぐ対策を講じる必要があります。

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