裁判例解説

Case: 退職後の競業避止義務~競業避止義務には合理性が求められる~

(A社事件・福岡地裁平19.10.5 労判 956 -91)

競業避止義務とは

社員が会社を退職後、競合会社に転職したり、競合会社を設立する場合が考えられます。

退職した社員の立場を考慮しますと、これまでの経験や知識を発揮できる会社で働くことを希望し、結果として競合会社に転職等を行うという実態があります。一方、会社としては社員が競合会社へ転職等をしてしまいますと、営業秘密が漏洩してしまい、大きな損失を被るリスクがあります。 このため、会社は、就業規則に競業他社に就職したり、設立してはならない旨の規定をおくことが考えられます。

しかしながら、憲法22条1項においては、「職業選択の自由」が定められているという事実があります。したがって、社員が退職後、会社が合理的理由なく、職業の選択の自由を奪うことは公序良俗に反して無効と考えられます。

問題となるのは「合理的理由の判断」です。この点は裁判例を見ながら確認することにしましよう。

競業避止義務が認められなった例

A社事件(福岡地判平19.10.5 労判 956 -91)において、会社は、就業規則で「社員は、退職後2年以内の期間において、会社と同等の事業に直接または間接を問わず従事してはならない。」旨の競合禁止条項を設けていました。また、入社時には「在職中の会社の全取引に対して、退社後3年以内は会社と同一または類似の業務は致しません。上記各条項に反し万一会社に迷惑をかけたときは、その損害を賠償いたします。」等を記載した誓約書を会社は受領しています。

しかしながら、以下の理由により、この競業禁止については否定されました。

  1. 顧客情報等の秘密性に乏しく、会社が元社員に対して競業避止を求める利益は小さい。
  2. 競業避止の対象となる取引の範囲(種類、地域)は広範で、期間も長期に及び、競業避止条項により、元社員の生存権、職業選択の自由、営業の自由に対する侵害が大きい。
  3. 元社員は、会社において役職を有しておらず、退職後、会社の従業員に対して強い影響力を有する地位等にあったとはいえない。
  4. 会社が元社員に対して競業避止に関する代償措置を講じた事実は認められない。
  5. 以上のほか諸般の事情を総合考慮しても、競業禁止条項を設ける合理的事情は見当たらず、本件誓約書合意及び就業規則の競業禁止条項は公序良俗に反して無効である。

競業避止義務の判断の基準

この裁判例は概ねF社事件(奈良地裁昭45.10.23日)の判断を基準としていると考えられます。合理性の判断について以下のとおり述べています。

その制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、会社の利益(会社秘密の保護)、社員の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って慎重に検討していくことを要する。

その結果、この事件では、以下5点がポイントとなりました。

①制限期間が2年間という比較的短期間であること、②制限の対象職種は会社の営業目的である金属鋳造用副資材の製造販売と競業関係にある会社であること、③制限の対象は比較的狭いこと、④場所的には無制限であるが、これは会社の営業の秘密が技術的秘密である以上やむをえないと考えられること、⑤退職後の制限に対する代償は支給されていないが、在職中、機密保持手当が支給されていること、

これらの事情を総合すると、本件契約の競業の制限は合理的な範囲を超えているとは言い難く、本件契約はいまだ無効と言えないとしました。

企業の対策

企業としては、競業禁止条項を設けたとしても、合理性を有さなければ否定されることになります。この合理性を認めてもらうことはなかなか難しいといえるでしょう。 合理性を認めてもらうには、使用者の正当な利益の保護を目的とすること、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、代償措置等を総合的に考慮することが必要になります。

以下に示しますのは、先ほどの2つの裁判例を踏まえたオリジナルの誓約書例です。かなり限定していますが、参考にしていただきたいと思います。

○○年○○月○○日

○○株式会社
代表取締役 ○○様

誓  約  書

  1. 私は、貴社に在職中、○○部に所属しており、○○部長として貴社の営業秘密を知得する立場でした。営業秘密の具体例は、別紙の営業秘密リストに記載されている内容と理解しています。また、私は、貴社の営業秘密は、秘密として適切に管理されていることを認識し、同時に秘密保持手当として、月額○万円の支給を受けていました。
    以上から、貴社の営業秘密を第三者へ漏洩することは、貴社に対する重大な悪質な行為であるとともに不正競争防止法違反であることを深く認識しています。 決して、貴社の営業秘密を社外へ持ち出したり、他へ交付する等の行為を行わないことを確約します。
  2. 私は、貴社を退職するまでに、営業秘密に関する書類、データ等の情報を全て、貴社に返還することを確約します。
  3. 私は、退職後2年間は、○○県において、貴社と競合する○○の製造・販売を行う会社に転職したり、設立する行為を行わないことを確約します。
  4. この誓約書に違反して、貴社に損害を及ぼした場合は、その損害を賠償することを確約します。

○○市○○町○○
○○○○

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