裁判例解説

Case: 内定取消 ~内々定の取消は違法か?~

(K社事件・福岡地裁平22.6.22 労判1008‐5)

事件の概要

Aは、K会社の適性試験や面接試験を経て最終面接を受けました。K会社はAの採用内々定を決定し、内々定通知には正式な内定通知は10月1日(水)を予定していることが記載されていました。

ところがK会社は、Aに対して9月29日付けで「採用内々定の取消のご連絡」と題する書面を送付しました。

そこで、Aは内々定の取り消しは違法であるとして、債務不履行または不法行為に基づいて、K会社に対して損害賠償を請求しました。

裁判のポイント

裁判のポイントは、以下のとおりです。

1.本件内々定は、正式な内定(労働契約に関する確定的な意思の合致)とは明らかにその性質を異にするものであって、正式な内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないというべきであり,Aもそのこと自体は十分に認識していたのであるから、本件内々定によって、A主張のような始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって、労働契約の成立を前提とするAの主張は理由がない。

2.このような事実経緯からみる限り、(中略)AがK社から採用内定を得られること、ひいてはK社に就労できることについて強い期待を抱いていたことはむしろ当然のことであり、特に採用内定通知書交付の日程が定まり、そのわずか数日前に至った段階では、AとK社との問で労働契約が確実に締結されるであろうとのAの期待は法的保護に十分に値する程度に高まっていたというべきである。(中略)

経済状況がさらに悪化するという一般的危惧感のみから,Aへの現実的な影響を十分考慮することなく、採用内定となる直前に急いでAの本件内々定取消しを行ったものと評価せざるを得ない。 そして、当時、AについてK社との労働契約が成立していたと仮定しても、直ちにAに対する整理解雇が認められるべき事情を基礎付ける証拠はない。

そうすると、K社の本件内々定取消しは,労働契約締結過程における信義則に反し、Aの上記期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するから、K社は、AがK社への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負うというべきである。

そして、最終的には、採用の期待権を侵害したとして慰謝料100万円が認められました。

裁判から学ぶこと

今回の裁判では、内々定については、「始期付解約権留保付労働契約」が成立したとはいえないとしつつも、今回のような内々定取消について採用の期待権を侵害したとして、100万円の慰謝料の支払いを命じたことが注目されます。

今後の企業の対策としては、内々定であっても期待権を構成することがある点に留意し、①取消の可能性がある場合は、その旨を事前に伝える、②取り消す場合は就職活動を考慮して早めに連絡する、③取消の理由を明確にする、④誠実に対応する   などが考えられます。

いずれにしても、安易に内々定取消を行うことはリスクが高いといえますので、注意が必要です。

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