裁判例解説
Case: 身だしなみ基準 ~合理的な制限とは~
(Y社(身だしなみ基準)事件・東京地判平22.3.26 労判1006‐49)
事件の概要
会社は、通常、就業規則等に服務規律を定めますが、これを厳格に適用することは難しいことがよくあります。今回の裁判では、職員Aの長髪やひげにつきまして、Y社が「身だしなみ基準」を厳格に適用させて人事評価の引き下げや賃金カット等をした結果、Aが違法と主張して損害賠償を請求しました。
裁判のポイント
裁判のポイントは、以下のとおりです。
- 労働者の服装や髪型等の身だしなみは、もともとは労働者個人が自己の外観をいかに表現するかという労働者の個人的理由に属する事柄であり、髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであることから、そのような服務規律は事業遂行上の必要性が認められ、具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められるべきである。
- Y社が新たに公社身だしなみ基準を定めたことは、郵政公社が郵政民営化を控え、一般の私企業と同様に、顧客に対する満足度の向上を図り、郵政公社に対するイメージを向上させるための企業努力の―環として行われたものと認められ、これを定める必要性と一定の合理性が認められるというべきである。(中略)
- Y社における服務に関し男性の長髪及びひげは不可とする灘局基準1・2並びに窓口業務を担当する男性職員のひげは不可とする公社基準2は、いずれもこれを長髪及びひげについて 一律に不可と定めたものであると解する場合には、Y社に勤務する男性職員の髪型及びひげについて過度の制限を課するものというべきで、合理的な制限であるとは認められないから これらの基準については「顧客に不快感を与えるようなひげ及び長髪は不可とする」との内容に限定して適用されるべきものである。
したがって、前記認定のとおり整えられたAの長髪(引き詰め髪)及び整えられたひげは、いずれも、公社身だしなみ基準及び灘局身だしなみ基準が禁止する男性の長髪及びひげには該当しないというべきである。
そして、Aに違法な人事評価による賃金カット相当額と慰謝料を支払うよう命じました。
裁判から学ぶこと
今回の事例のように、一方的に会社が厳しい基準を作成して、違反者に懲戒処分や人事評価引き下げ等を行うと、トラブルになるリスクがありますのでこの点は注意が必要です。
まずは、人の好みはさまざまであり、価値観の多様化を認めるべきです。しかし、同時に職場は業務遂行の場ですから、業務に支障を与える格好は避けてもらわなければなりません。
したがって、労使で職場での格好は「どこまで許されるのか」、「いきすぎとは、どの程度か」等をよく話しあって、その上で労使が納得できるガイドライン等を作成して、社員に周知徹底することで、良好な職場環境の形成を図ることがよいと考えます。
