裁判例解説
Case: 労働者への損害賠償~会社が社員に対して損害賠償請求~
(A社事件・京都地裁 平23.10.31判決 労判1041‐49)
事件の概要
社員A及びFチーム(社員Aは責任者)のメンバーのミスにより、大口顧客のソフトウエアのカスタマイズ業務について不具合が多くなる等により、売上が減少等の多大な損害を会社に与えました。そこで、会社が社員Aに対して損害賠償を請求した事件です。
裁判のポイント
裁判のポイントは、以下のとおりです。
- 労働者が労働契約上の義務違反によって使用者に損害を与えた場合、労働者は当然に債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。
- すなわち、労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであるといえる(報償責任)し、業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであると考えられる(危険責任)。
- したがって使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し損害の賠償をすることができると解される。
- 本件においては、社員AあるいはFチームの従業員のミスもあり、顧客からの不良改善要求に応えることができず、受注が減ったという経過は認定のとおりであるが、社員Aにおいてそれについて故意又は重過失があったとは証拠上認められないこと、会社が損害であると主張する売上減少、ノルマ未達などは、ある程度予想できるところであり、報償責任・危険責任の観点から本来的に使用者が負担すべきリスクであると考えられること、会社の主張する損害額は2,000万円を超えるものであり、社員Aの受領してきた賃金額に比しあまりにも高額であり、労働者が負担すべきものとは考えがたい。
- 会社が主張する損害は、取引関係にある企業同士で通常に有り得るトラブルであり、それを労働者個人に負担させることは相当でなく、会社の損害賠償請求は認められない。
以上のように、会社が求める損害賠償請求は認められませんでした。
裁判から学ぶこと
この裁判では、労働者の損害賠償責任については、信義則の見地から労働者の責任は制限されるべきだという見解を述べています。この見解は、最高裁判例(茨城石炭商事事件 最一小判昭51.7.8民集30巻7号689頁)の判断に沿っており、確立された見解といえます。 したがって、労働者の業務未達による会社の売上減少等を理由とした損害賠償請求については、よほどのことがなければ、なかなか認められにくい面があるといえるでしょう。
