規程・トピック 解説

残業手当(割増賃金)

年俸制との関係

時々相談を受けるケースとして、「年俸制は残業手当が組み込まれているから時間管理は必要ない」があります。

実は、これは間違った理解です。まずは、裁判例の要約を見てみましょう。

判例のポイント:創栄コンサルタント事件 ・年俸制を採用することで、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくて良いことにはならない。
・使用者と労働者との間に基本給に時間外割増賃金等を含む合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別なく、一体として支払っていても、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否か後から計算により確認できない賃金の支払い方法は、割増賃金に関する労働基準法に違反し無効である。
(創栄コンサルタント事件 大阪地裁H14.5.17)

以下の通達もあります。

平成12.3.8基収70号 要約 一般的には、年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであり、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ割増賃金相当部分が法定の割増賃金以上で支払われているような場合には割増賃金に関する労働基準法に違反しないと解される。

つまり、年俸制に残業手当を含めることは大丈夫なのですが、実際に法定の計算で支払うべき残業手当が、もともと含んでいる金額を上回ったら、差額を支払わなければならないといえます。

では、その差を把握するには、どうればいいかというと、時間管理をしなくてはなりません。実際の残業時間が把握できないからです。 したがって、年俸制でも当然時間管理は必要になってきます。

指示なし残業との関係

本来、残業とは業務命令に基づくものであり、会社側は、「社員が勝手に行った残業まで面倒みきれん」と考える場合が多いでしょう。

この点は、基本的に同感です。ダラダラ残業は、生産性向上に良くないです。こうした残業は極力減らさなければいけません。

ただ、指示なし残業といっても、業務量が多く、あたかも直接的には指示はしていませんが、残業しても黙認している場合があります。この場合は問題が出てきます。
ここで、裁判例をみてみましょう。概要は以下のとおりです。

判例のポイント:リンガラマ事件(略) ・使用者が労働者に対して労働時間を延長して労働することを明示的に指示していない。
・しかし、労働者に行わせている業務の内容から、所定の勤務時間内では当該業務を完遂できず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して業務を完遂せざるを得ない状況とする。
・こうした場合は、使用者は当該業務を指示した際に労働者に対し労働時間を延長して労働することを黙示に指示したというべきである。
・したがって、労働者が当該業務を完遂するために所定の勤務時間外にした労働は割増賃金の支払を受けることができるというべきである。
(リンガラマ・エグゼグティブ・ラングェージ・サービス事件 東京地裁H11.7.13)

いかがでしょうか。

このように業務の実態から見て、従業員が残業を余儀なくされる状態であれば、残業の具体的な指示がでていなくても、黙示的に指示したものとみなされます。 その結果、残業命令をしていない残業に対しても残業手当の支払をしなければいけないことになりますので、注意が必要ですね。

労働契約との関係

今回は、従業員と残業手当の支払いなし契約は無効であることを説明します。 企業の経営者の中は、「うちは、もともと給料が高いのだから、残業代は払わん。従業員も皆納得している」と考えている方もいるのではないでしょうか。

その理由の1つとしては、時間管理の面倒さがあると思います。残業手当は残業時間に応じて支払うものですので、時間管理は必要です。こうした時間管理を省略するために、基本給を高めにして、残業手当込みとしてしまうのだと思います。

しかしながらこれは、明確な労働基準法違反になります。   労働基準法第13条では、「この法律に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は法律の定める基準による。」とあります。

つまり、法律の定める要件を満たさない労働契約はダメということです。 一方、残業手当に関する法律といいますと、労働基準法第37条があります。

労働基準法第37条では、「使用者が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内で、それぞれ 政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」とあります。

簡単に言えば、「残業や休日労働させた場合は、きちんと計算して残業手当を払いなさい」ということです。

管理職と管理監督者

今回は、管理職と管理監督者では異なる場合があることを説明します。 まず、労働基準法労第41条では、「労働時間・休憩・休日に関する規定は、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者には適用しない」と定めています。

こうしたこともあり、管理監督者については残業代を支払わなくてもよいとなり、会社によっては、多くの社員を課長以上の管理者としています。そして、管理者は管理監督者だから残業代は払わない取扱にすることが行われやすくなります。

では、課長にしてしまえば、全て残業代が不要になるのでしょうか。

さすがに、そうはいきません。以下の通達があります。

昭63.3.14基発150号 要約
  • 企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者としての例外的取扱が認められるものではない。
  • これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理 監督者として適用除外が認められること。
  • 管理監督者の範囲を決めるには、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある。
  • 管理監督者であるか否かの判定に当たっては、賃金等の待遇面についても無視しえず、基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても一般労働者に比して優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要がある。但し、優遇措置が講じられていても実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではない。

タイムカード情報との関係

今回は、タイムカード情報を勝手に変えることはできないことについて解説します。

タイムカードで労働時間を管理しているものの、残業時間は本人の自己申告で管理する場合もあると思います。

このような場合は、タイムカード情報が基本情報となります。したがって、申告時間がタイムカードの打刻時間と異なっても、勝手にタイムカードの時刻を変更できません。

ここで裁判例をみてみましょう。

判例:千里山生活協同組合事件 「特段の事情がない限り、タイムカードの記載する時刻で出勤・退勤の時刻と推認でき、原則としてこれにより時間外労働時間を算定することが合理的である。タイムカードの時刻が、従業員の就労の始期・終期と完全に一致するものではない。
しかし、タイムカードを打刻すべき時刻について特段の取決めがなされた事情が窺えない場合は、タイムカードの出勤・退勤時刻と就労の始期・終期との間に齟齬があることが証明されない限り、タイムカードの出勤・退勤時刻で実労働時間を認定するべきである。」
(千里山生活協同組合事件:大阪地裁H11.5.31)

このようにタイムカードの時刻が出退勤の基本情報となり、実際に残業時間と異なる場合は、証明が必要です。


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