
【概要】
あるゲーム制作・企画会社では、入社式で「退職届」を出してもらいます。具体的には、次の内容が特徴的です。
1.入社初日に退職届を出してもらい、読み上げてもらいます。
勿論、この退職届は本物ではありません。退職届を出しても、その通りに辞める義務はありません。定年まで勤めても問題ありません。
2.会社としては、退職というゴールを意識させることとしています。その上で、会社でどのような仕事をしてどう成長していきたいのかを考えてもらいます。
3.ある社員は、退職理由として「コットンファーム(綿花農場)を開業するため」としました。また、別の社員は、「音楽を中心とした制作会社を立ち上げるため」としました。
4.会社は社員に独立開業を推奨しています。
これまでに114人の起業家・経営者を輩出しています。
【意見・感想・解説】
今回は、入社式で退職届を提出させる取り組みを取り上げました。
入社して、すぐに退職届とは驚きです。しかも会社命令ですので、かなり非常識な取り組みです。
ただ、いずれ独立開業を意識することになりますので、キャリア形成を真剣に意識しながら勤務することになると思います。結果として、業務に真剣に取り組むことになり、会社の業績向上に寄与することが期待できます。
懸念事項としては、退職を全社員が宣言していますので、優秀な社員が社外流出することがあげられます。会社としては、独立開業を推奨していますので、こうした点は織り込み済みですが、一時的な戦力ダウンは避けられません。
実際には、ある程度、慰留して対応する面が出てくると思います。
会社から社員へのメッセージ例
社員の皆様へ
当社は、社員一人ひとりの人生と成長を、何よりも大切に考えています。
入社の時点で自らの将来像や夢を思い描くことは、決して「早く辞めるため」のものではありません。むしろ、今この会社で過ごす時間を、より充実したものにし、自分らしい成長へとつなげていただくための大切なきっかけです。
皆様には、日々の仕事を通じて力をつけ、経験を重ね、自分の可能性を広げていただきたいと願っています。そして会社としては、その歩みを全力で支え、安心して働き続けられる環境を整えることが責任であると考えています。
当社が大切にしているのは、社員が会社にいる間、前向きな気持ちで仕事に打ち込み、「この会社で働いてよかった」と感じられる時間を積み重ねていただくことです。社員の皆様が意欲を持って働き、成長を実感し、仲間と支え合いながら長く活躍してくださることは、会社にとって何よりの喜びです。
たとえ将来、独立や新たな挑戦という夢を持つ方がいたとしても、当社はその思いを否定しません。夢を持つことは素晴らしいことです。しかし同時に、その夢を育てる今この時間を、当社でのかけがえのない経験として大切にしてほしいと思っています。当社で学び、挑戦し、悩み、乗り越えた日々は、必ず皆様の力になります。
会社は、社員を単なる労働力として見ているのではありません。かけがえのない仲間として、そして共に未来をつくる大切な存在として見ています。だからこそ、皆様には安心して力を発揮していただき、できる限り長く当社で活躍していただきたいと心から願っています。
皆様の存在が、会社の力そのものです。これからも共に歩み、共に成長し、より良い未来を築いていきましょう。
代表取締役社長〇〇〇〇
キャリア形成支援退職届提出制度規程例
(目的)
第1条 本規程は、社員が入社時点において自らの将来の目標および退職後に実現したい事項を明確にし、在職中の成長目標を主体的に設定することにより、計画的なキャリア形成を促進することを目的とする。
(適用対象)
第2条 本規程は、当社に正社員として入社する者に適用する。
2.会社が必要と認めた場合は、有期契約社員その他の社員についても、本規程の全部または一部を準用することがある。
(制度の内容)
第3条 本制度は、入社時に社員が将来の退職理由、退職後に実現したい目標その他自己の将来像を記載した書面を提出することにより、自らのキャリア形成について考える機会を設けるものである。
2.前項の書面は、実際の退職の申出を意味するものではなく、当該書面を提出したことをもって退職の効力は生じない。
(提出書類)
第4条 社員は、入社初日に、会社所定の様式による退職届提出制度用書面を作成し、提出しなければならない。
2.前項の書面には、次の事項を記載するものとする。
1.氏名
2.入社日
3.将来想定する退職理由
4.退職後に実現したい目標または事業内容
5.在職中に習得したい知識、技能または経験
6.その他会社が必要と認める事項
(入社式における実施)
第5条 会社は、入社式その他これに準ずる機会において、社員に前条の書面の内容を読み上げさせることがある。
2.前項の実施は、社員に自己の将来像を明確に認識させることを目的とするものであり、退職の意思表示を確認するために行うものではない。
(法的効力の否定)
第6条 本制度に基づき提出された書面は、社員の将来目標を確認するための資料であり、民法その他の法令に基づく退職の意思表示として取り扱わない。
2.社員は、当該書面の記載内容にかかわらず、定年まで継続勤務することができる。
3.会社は、当該書面の提出または読み上げを理由として、退職時期その他の労働条件を一方的に決定しない。
(キャリア形成支援)
第7条 会社は、社員が記載した将来目標の実現に資するよう、在職中の業務経験、教育訓練、配置その他必要な支援に努めるものとする。
2.社員は、自ら記載した目標を踏まえ、在職中に必要な知識および能力の向上に努めるものとする。
(独立開業の尊重)
第8条 会社は、社員が将来独立開業その他の新たな事業活動を目指す意思を有する場合には、その意向を尊重する。
2.会社は、社員の自律的なキャリア形成の一環として、適正な範囲で独立開業に向けた助言その他の支援を行うことがある。
3.前項の支援の内容および方法は、個別の事情を踏まえ、会社が別に定める。
(秘密保持等)
第9条 社員は、独立開業その他将来の活動を予定する場合であっても、在職中および退職後において、法令、就業規則その他会社の定める秘密保持義務および競業に関するルールを遵守しなければならない。
2.会社は、社員に対し、必要に応じてこれらの義務について説明を行うものとする。
(退職時の手続き)
第10条 社員が実際に退職しようとするときは、本制度に基づき提出した書面の有無または記載内容にかかわらず、就業規則その他会社の定める正式な退職手続きによらなければならない。
2.社員は、退職を希望する場合、会社の定める時期および方法により退職届その他必要書類を提出し、業務引継ぎその他必要な手続きを行わなければならない。
3.会社は、業務運営上必要があると認めるときは、社員に対し、引継計画書、貸与物返還書その他必要書類の提出を求めることがある。
(面談および慰留)
第11条 会社は、社員から正式な退職の申出があった場合、必要に応じて面談を実施し、退職理由、今後の進路、業務引継ぎその他必要事項を確認するものとする。
2.会社は、社員の能力、業務上の必要性その他の事情を考慮し、適切な範囲で慰留を行うことがある。
3.前項の慰留は、社員の自由な意思決定を不当に妨げるものであってはならない。
(書面の保管および管理)
第12条 会社は、本制度により提出された書面を人事資料として保管し、適切に管理するものとする。
2.当該書面の閲覧権限は、業務上必要な範囲に限り、会社が指定する者に付与する。
3.会社は、個人情報保護に関する法令および社内規程に従い、当該書面に記載された個人情報を適切に取り扱うものとする。
(制度運用上の留意事項)
第13条 会社は、本制度の運用に当たり、社員に対して退職を強要し、または不利益な取扱いをしてはならない。
2.社員は、本制度の趣旨を理解し、誠実に書面を作成するものとする。
3.本制度の運用に関し必要な事項は、人事担当部門が別に定める。
(主管部門)
第14条 本規程の主管部門は、人事担当部門とする。
2.本規程の解釈、運用、様式の制定および改廃に関する事項は、人事担当部門が所管する。
(附則)
第15条 本規程は、令和◯年◯月◯日より施行する。
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入社時に将来の退職や独立開業を意識させる制度は、社員の主体的なキャリア形成を促す一方で、制度設計や運用を誤ると、誤解や不安を招き、労務トラブルにつながるおそれもあります。特に、退職意思の有無、制度の法的位置づけ、運用時の説明方法、個人情報の管理などは、慎重な対応が欠かせません。
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代表社員 坂本直紀の紹介
坂本 直紀(さかもと なおき)
人事コンサルタント/特定社会保険労務士/中小企業診断士
坂本直紀 社会保険労務士法人 代表社員
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