ハラスメント対策 解説コーナー

ハラスメントの現状とリスク

行政における相談対応状況

近年、ハラスメントに関するトラブルは多発しており、行政機関にも多くの相談が寄せられている状況です。

厚生労働省が発表した『令和元年度 個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、民事上の個別労働紛争の相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が87,570件と、8年連続で最多となっています。

また、この「いじめ・嫌がらせ」に関するトラブルは、他の相談内容と比較して、著しく 多くの相談が寄せられている状況です。

労働紛争相談件数推移 ~令和元年(2019) 調査

2019年度(令和元年度)個別労働紛争

厚生労働省「令和元年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」より

厚生労働省が発表した『令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況』によると、「セクシュアルハラスメント」に関する相談が37.4%を占め、この3年間、一貫して最多となっています。

次いで「婚姻,妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」が、24.3%(4,769件)となっており、多くの不利益な取り扱いに関する相談が寄せられていることが読み取れます。

一方、妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)の相談件数については、3年連続で、毎年2,000件以上の相談が続いています。

労働紛争相談件数推移 ~令和元年(2019) 調査

2019年度(令和元年度)都道府県労働局雇用環境

厚生労働省「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」より

ハラスメントによるリスク

一旦ハラスメントが社内で発生すると、企業内でさまざまなリスクが生じます。
以下は、パワハラの実態に関する調査研究報告書です。「パワハラは企業にどんな損失をもたらしますか」の項目(下図)で、最も多いのが「社員の心の健康を害する」、いわゆるメンタルヘルス不調です。

パワハラがもたらす損失

パワハラがもたらす損失

厚生労働省「これってパワハラ?」より

パワハラ行為が発生した場合、通常は一回きりで終わらず、執拗に行われます。その場合、被害者のメンタル不調が悪化し、自己の精神的なコントロールが効かなくなり、最悪の場合は自殺念慮、さらには自殺へと結びつくことがあります。

また、「本人のみならず、周りの士気が低下する」の回答が比較的多いことも、注目されます。 すなわち、パワハラは被害を受けた本人ばかりではなく、周囲の社員にも悪影響を及ぼすことが分かります。

ある社員が被害を受けていれば、「自分が次は標的になるかもしれない」と感じることもあるでしょうし、ギスギスした雰囲気が漂っていると、モチベーションが低下しやすくなります。

その結果、いつの間にか直接被害を受けていない周囲の社員も萎縮し、能力発揮に支障が生じかねません。さらにいえば、「ギスギスした職場で働きたくない」と、転職を決意してしまうかもしれません。

このように、パワハラが社内で頻繁に行われていますと、優秀な社員の確保・定着に、確実に悪影響が生じてしまいます。もちろん、セクハラやマタハラなども、同様にさまざまな悪影響を及ぼします。

ハラスメントにおける刑事責任と民事責任

これまでお伝えしたように、ハラスメントは、非常に問題となる行為であるため、発生防止に努める必要があります。

ハラスメントを発生させた行為者には、以下の通り、厳しい法的責任が科されることがあります。また、使用者も法違反として、民事責任を追及される可能性があります。

行為者(加害者)

(1)刑事責任:刑法

強制わいせつ(176条)6月以上10年以下の懲役
傷害(204条)15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
暴行(208条)2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
脅迫(222条)2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
強要(223条)3年以下の懲役

(2)民事責任:民法

「不法行為による損害賠償(709条)」が適用されます。 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うことになります。

(3)就業規則

上記法的責任に留まらず、就業規則上の懲戒処分の対象になる場合があります。

使用者

(1)安全配慮:労働契約法5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を碓保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとしています。

(2)使用者責任:民法715条

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことになります。


以下に示すのは、セクハラ、パワハラに関する裁判例です。

セクハラ裁判例 Vol.1

【概要】
ある出版社の編集長が、部下の異性関係等について非難の発言を社内外の関係者に対して行い、退職を余儀なくさせられたとして、この部下が会社と編集長に対して慰謝料を請求しました。この編集長は、約2年間にわたり、部下の異性関係が派手であるなどのうわさを社内外に流しました。

そして、専務はこうした動きを個人的な問題であるとし、話し合いで解決できない場合は、部下を退社させる方針を固めました。こうした中、部下は編集長の謝罪を求めたため、専務は部下に退社してもらう旨を告げました。

【判決】
判決では、編集長の行為が不法行為に当たるとし、専務の行為も職場環境を調整する配慮義務を怠ったとし、損害賠償として165万円の支払いを命じました。

(福岡地裁  平成4年4月16日)

セクハラ裁判例 Vol.2

【概要】
ある医師会の職員が、研修旅行の懇親会の二次会の際、事務局長らからキスをされるなどのセクハラ行為を受けたとして、事務局長及び医師会に対し、損害賠償の支払いを求めました。

この事件発生以前に、セクハラ行為を防止する組織的な措置は全く取られていませんでした。こうしたこともあり、職員らのセクハラ行為に対する知識及び認識は極めて不十分でした。

【判決】
裁判では、研修旅行中に行われたセクハラ行為について防止できた可能性が高く、職場環境維持・調整義務を怠っていたとして、セクハラ行為によって被った損害について、医師会は事務局長と共同して賠償責任を負うとし、慰謝料30万円の支払いを命じました。

(鹿児島地裁  平成13年11月27日)

パワハラ裁判例 Vol.1

【概要】
福井県のある会社で勤務していた当時19歳の社員が自殺したのは、上司からのパワハラが原因として、父親が損害賠償を求めました。

会社では、仕事のミスなどを理由に直属の上司から「相手するだけ時間の無駄」、「死んでしまえばいい」等の発言を繰り返されていました。その後うつ病を発症し、12月に自宅で自殺を図りました。少年は注意された際の文言を、手帳に残していました。そして、この中の23の文言がパワハラと裁判で認定されました。

【判決】
裁判では、典型的なパワハラで、自殺との因果関係が認められるとし、上司1人と会社に7,261万円の支払いを命じました。

(福井地裁  平成26年11月28日)

パワハラ裁判例 Vol.2

【概要】
愛知県のある会社で勤務していた社員が2009年1月に自殺しました。この自殺は、社長らのパワハラ行為が原因として、妻らが会社に損害賠償を求めました。

自殺の直前1週間には、太ももを蹴られ12日間のけがをしました。さらに、退職届を書くよう強要されました。また、社長は仕事のミスをめぐって「ばかやろう」と男性を怒鳴ったり、頭をたたいたりしていました。

【判決】
裁判では、男性が社長の暴言と暴行に恐怖を感じていたと指摘し、パワハラが自殺につながったと認め、会社と社長に約5,400万円の支払いを命じました。

(名古屋地裁  平成26年1月15日)

このようにハラスメントが深刻化すると裁判で争うケースも出てきます。 したがって、ハラスメントの予防を図るとともに、万が一ハラスメントが生じたら、迅速かつ適切に対応し、トラブルが深刻化しないようにする必要があります。

ハラスメントの現状及びリスクのまとめ

以上の通り、ハラスメントは被害者にとってメンタルヘルス不調のリスクをもたらし、最悪の場合は自殺につながります。

同僚なども、いつ自分が標的になるかわからず不安になるため、能力の発揮に支障が生じます。

行為者は、法的責任が追及されるとともに、就業規則上の懲戒処分を受けることもあります。

使用者(会社)においては、損害賠償責任を追及されるとともに、SNSなどを通じて、”ブラック企業”として糾弾されるリスクがあります。

このように、ハラスメントは何一ついいことはありません。 従って、このことを肝に銘じ、会社全体でハラスメントを予防あるいは再発防止を図ることが重要です。

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