
【概要】
ある機械工具卸売商社では、上司の昇格に対して部下や同僚が投票する制度を導入しています。具体的には、次の内容が特徴的です。
1.課長など役職の昇格候補者は、その人物を知る社員全員から投票されます。賛成が「8割」に達しなければ昇格できません。
2.投票する社員は、賛否だけでなく、匿名でコメントも記入することができます。
3.この制度の問題点としては、「部下にきつく指導しない」、「評価点数を気にする」といった上司が見られることです。
【意見・感想・解説】
今回は、上司の昇格判断に際し、部下や同僚が投票する制度を取り上げました。
通常、昇格については、その上司や会社の評価者調整会議などで決めることが多いです。ですので、部下の立場の社員は、上司の昇格判断には関わりません。少し変わった制度ではありますね。
上司の立場の方は、部下や同僚とのコミュニケーションやハラスメントがあれば問題となります。
こうしたことから、部下や同僚が、上司の昇格がふさわしいか否か判断する機会を設けることは、頷けるものがあります。
とはいえ、確かに昇格を強く意識して、部下の顔色をみながら仕事をする上司も出てきそうです。逆パワハラも起こる可能性もありますね。
制度の課題はみられますが、部下の意見を吸い上げることは大切ですので、運用の中で適宜改善していくと良いと考えます。
今回の事例を踏まえ、会社(社長)から社員へのメッセージおよび規程例を作成しました。ご参考ください。
会社から社員へのメッセージ例
社員の皆様へ
いつもそれぞれの持ち場で力を尽くしてくださり、心より感謝しています。
会社は、日々の業務の成果だけでなく、皆様一人ひとりが安心して働けること、成長を実感できること、そして互いに信頼し合える職場であることを何より大切にしています。会社の発展は、社員の皆様の努力と支えがあってこそ成り立つものです。だからこそ、私たちは「社員を大切にする会社」であり続けなければならないと考えています。
今回のように、上司の昇格にあたって社員の皆様の声を取り入れる制度は、管理職に求められる役割が、単に業績を上げることだけではなく、部下を支え、周囲と協力し、健全な職場環境をつくることにもあるという考え方に基づくものです。皆様の意見には、職場をより良くするための大切な気づきが含まれており、会社としても真摯に受け止めてまいります。
一方で、制度は導入すること自体が目的ではありません。大切なのは、社員の皆様が安心して意見を伝えられること、そして管理職が必要な指導をためらうことなく、誠実に部下育成に取り組めることです。会社は、現場の実情を踏まえながら、制度の改善を重ね、誰かが不利益を受けたり、職場の信頼関係が損なわれたりすることのないよう、丁寧に運用してまいります。
皆様には、これからも遠慮なく声を届けていただきたいと思います。その声は、会社をより良くするための貴重な財産です。そして会社は、社員の皆様が長く安心して働き続けたいと思える環境づくりに、これまで以上に力を尽くしてまいります。
これからも、社員一人ひとりを大切にしながら、互いに尊重し合い、支え合える職場を皆様とともにつくっていきたいと考えています。皆様の存在は、会社にとってかけがえのないものです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
代表取締役社長〇〇〇〇
上司昇格社員投票制度規程例
(目的)
第1条 本規程は、管理職への昇格候補者に対し、当該候補者を知る社員による投票を実施し、その適格性を確認する制度について定めることにより、適正な人事運用および健全な職場環境の形成を図ることを目的とする。
(適用範囲)
第2条 本規程は、課長その他会社が指定する役職への昇格候補者に適用する。
2 前項の対象役職は、会社が必要に応じて定める。
(昇格候補者)
第3条 昇格候補者は、会社が人事上の必要性、勤務成績、能力、経験その他の事情を勘案して選定する。
2 昇格候補者となった者は、本規程に基づく投票の対象となる。
(投票権者)
第4条 投票権者は、昇格候補者の職務遂行状況、人柄、指導姿勢その他管理職適性について相当程度把握している社員とする。
2 前項の投票権者の範囲は、原則として当該候補者の部下、同僚および関係部署の社員のうち会社が指定する者とする。
3 会社は、投票の公正性を確保するため、投票権者を事前に確認し決定する。
(投票方法)
第5条 投票は、会社が定める方法により、賛成または反対の意思表示をもって行う。
2 投票に際しては、投票権者は匿名で意見またはコメントを記入することができる。
3 前項のコメントは、昇格候補者の管理職適性、指導方法、部下対応、協調性その他業務遂行に関連する事項に限るものとし、誹謗中傷、私的感情その他制度趣旨に反する内容を記載してはならない。
(昇格要件)
第6条 昇格候補者は、投票権者のうち有効投票総数の8割以上の賛成を得た場合に、昇格審査の要件を満たすものとする。
2 前項の要件を満たさない場合、当該候補者は原則として当該時点では昇格しない。
3 会社は、投票結果のほか、勤務成績、業績、能力評価、懲戒歴の有無その他の事情を総合考慮のうえ、最終的な昇格可否を決定する。
(コメントの取扱い)
第7条 会社は、匿名コメントを昇格候補者に対する評価資料として取り扱うものとする。
2 会社は、コメントの内容を精査し、事実確認が必要と判断した場合には、関係者への聞き取りその他必要な調査を行うことがある。
3 匿名コメントは、評価および制度改善の目的に限って利用し、目的外利用をしてはならない。
(禁止事項)
第8条 投票権者および昇格候補者その他の社員は、次の各号の行為をしてはならない。
1.投票内容について他者に強要し、または誘導すること。
2.特定の候補者への賛否を目的として、不当な働きかけを行うこと。
3.報復、嫌がらせ、逆パワーハラスメントその他公正な制度運用を妨げる行為をすること。
4.虚偽の事実または誹謗中傷に基づくコメントを記載すること。
5.投票結果またはコメント内容を不正に漏えいすること。
(不利益取扱いの禁止)
第9条 会社は、投票権者が本規程に基づき適正に投票またはコメントを行ったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
2 昇格候補者その他の社員は、投票またはコメントの内容を理由として、投票権者に対し報復的行為をしてはならない。
(管理職としての適正な行動)
第10条 昇格候補者および管理職は、投票結果を過度に意識して部下に迎合することなく、業務上必要な指導、注意および評価を適切に行わなければならない。
2 会社は、管理職に対し、適正な指導方法、ハラスメント防止、部下育成および評価者としての姿勢について必要な教育を行うものとする。
(社内手続き)
第11条 会社は、昇格候補者の決定後、投票権者の範囲、投票期間、投票方法および集計方法を定め、対象者に周知するものとする。
2 投票の実施および集計は、人事担当部門その他会社が指定する部門が行う。
3 投票結果およびコメントは、会社所定の手続きにより保管し、関係者以外に開示しない。
4 投票結果を踏まえた昇格の最終決定は、社長その他会社が定める決裁権者が行う。
5 会社は、制度運用上必要があると認めるときは、関係者への説明、面談または再審査を実施することがある。
(再実施および見直し)
第12条 会社は、制度の適正な運用を確保するため、必要に応じて投票の実施方法、投票権者の範囲、賛成基準その他本制度の内容を見直すことができる。
2 前項の場合、会社は実情を踏まえ、制度の改善に努めるものとする。
(附則)
第13条 本規程は、令和◯年◯月◯日より施行する。
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代表社員 坂本直紀の紹介
坂本 直紀(さかもと なおき)
人事コンサルタント/特定社会保険労務士/中小企業診断士
坂本直紀 社会保険労務士法人 代表社員
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