副業と兼業の違い
2020年9月に厚生労働省が改定したガイドラインを踏まえて、副業と兼業について解説いたします。
厚生労働省では、「働き方改革実行計画」を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図っており、以下の特設ページを設けています。
→ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
まず、「副業」と「兼業」の違いですが、法律上、明確に違いを定めてはいません。一般的には、副業は”短時間の活動”を指し、兼業は”本業と同レベルの活動”とされています。
例えば副業の場合ですと、平日は会社に勤務して、土日の時間を利用してアルバイトをしたり、ネットビジネスを行う感じです。
一方、兼業ともなれば、例えば、午前はA社で勤務、午後はB社で勤務としたり、あるいは、月火水はC社で勤務、木金土はD社で勤務とするなど、同レベルの活動を2社以上で行う感じです。
就業規則規定例
「副業・兼業」の就業規則規定例について解説いたします。
厚生労働省のモデル就業規則では、「副業・兼業」について、以下の通り規定しています。
| 第〇条 | 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 |
| 2 | 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより、 次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 (1) 労務提供上の支障がある場合 (2) 企業秘密が漏洩する場合 (3) 競業により自社の利益が害される場合 (4) 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 |
これはモデル就業規則ですので、あくまでも参考という位置づけとし、自社の状況に合わせて適宜修正加筆するとよいでしょう。
そして、会社が副業・兼業を認める場合には、無制限ではなく、第2項のような制限を設けておくことが重要になります。
特に副業が原因で過労となり、本業の業務に支障が生じてしまっては問題です。こうした点に注意すると良いでしょう。
政府は、働き方改革実行計画を踏まえ、副業・兼業を奨励する方向性にあります。社内でトラブルが生じる前に、社内規則を見直すと良いでしょう。
副業・兼業の裁判例
次に、副業・兼業にまつわる裁判例について、いくつかご紹介したいと思います。
[1]マンナ運輸事件(京都地判 平成24年7月13日)
運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を、4度にわたって不許可にした件の判決です。
3度目、4度目の申請につき、不許可の理由は見られないことから、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容されました。
[2]十和田運輸事件(東京地判 平成13年6月5日)
運送会社の運転手が、年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関しての判決です。
職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効としました。
[3]小川建設事件(東京地決 昭和57年11月19日)
毎日6時間にわたる、キャバレーでの無断就労を理由とした解雇についての判決です。
兼業は深夜に及び、余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への誠実な労務の提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いことから、解雇有効としました。
[4]橋元運輸事件(名古屋地判 昭和47年4月28日)
会社の管理職にある従業員が、直接経営には関与していないものの 、競業他社の取締役に就任した件の判決です。これにつき、懲戒解雇事由に該当するため、解雇有効としました。
裁判例のまとめ
以上、4つの裁判例を見てきましたが、このように有効、無効と判断が分かれています。
このような裁判例を踏まえて、副業・兼業に関するガイドラインでは、 以下の通り記載しています。
「副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、以下に該当する場合と解されている。」
(1) 労務提供上の支障がある場合
(2) 業務上の秘密が漏洩する場合
(3) 競業により自社の利益が害される場合
(4) 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
こうした点を考慮して、副業・兼業の許可を判断していくとよいでしょう。
労働時間の通算:基本的な通算の考え方
ここでは、「副業・兼業」における、労働時間の考え方について取り上げます。
1.基本的な通算の考え方
まず、基本的な通算の考え方ですが、労基法第38条第1項で、以下の通り定めています。
「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」
そして、この「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むとされています(労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け基発第769号))。
従って、労働者が、事業主を異にする複数の事業場において、「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合に、前述の労基法第38条第1項の規定により、それらの複数の事業場における労働時間が通算されることになります。
2.通算されない場合
一方で、次の場合は、「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当しませんので、その時間は通算されないことになります。
(1)労基法が適用されない場合
フリーランス、独立、起業等
(2)労基法は適用されるが、労働時間規制が適用されない場合
農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度
なお、これらの場合も、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、申告することなどにより、就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。
労働時間の通算:通算して適用される規定
ここでは、「通算して適用される規定」について解説します。
通算適用の基本的な考え方
法定労働時間(労基法第32条)について、その適用において、「自らの事業場における労働時間」及び「他の使用者の事業場における労働時間」が通算されます。
特別条項の上限規制について
時間外労働(労基法第36条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(同条第6項第2号及び第3号)については、労働者個人の実労働時間に着目し、当該個人を使用する使用者を規制するものになります。
従って、その適用において、「自らの事業場における労働時間」及び「他の使用者の事業場における労働時間」が通算されます。
すなわち、36協定の特別条項の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内については通算されることになりますので、自社と副業先の労働時間を通算して、これらの時間内に抑えておく必要があります。
労働時間の通算:通算して適用されない規定
今回は、「通算して適用されない規定」について解説します。
36協定の限度時間等について
時間外労働(労基法第36条)のうち、36協定により延長可能な時間の限度時間(同条第4項)、36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(同条第5項)については、個々の事業場における36協定の内容を規制するものであり、それぞれの事業場における延長時間を定めることとなります。
また、36協定において定める延長時間が事業場ごとの時間で定められていることから、それぞれの事業場における時間外労働が、36協定に定めた延長時間の範囲内であるか否かについては、「自らの事業場における労働時間」と「他の使用者の事業場における労働時間」は通算されません。
以上から、整理すると以下の通りとなります。
[通算するもの]
●時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内
[通算しないもの]
●36協定により延長できる時間の限度時間
●36協定に特別条項を設ける場合の、1年についての延長時間の上限
●それぞれの事業場における時間外労働が、36協定に定めた延長時間の範囲内であるか否か
休憩、休日、年次有給休暇
労働時間に関する規定ではなく、その適用において自らの事業場における労働時間に関する規定ではありません。
従って、その適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間は通算されません。
労働時間の通算:割増賃金-所定労働時間の通算
ここでは、労働時間通算の割増賃金、その中の「所定労働時間の通算」について説明します。
副業・兼業の開始前
自らの事業場における所定労働時間と、他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。
通算して法定労働時間を超える部分がある場合
上記の通算によって、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、「時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超過部分」が時間外労働となります。
ここでのポイントは、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超過部分が時間外労働となるという点です。
具体例
●企業A:時間的に、先に労働契約を締結
所定労働時間1日5時間(7時~12時)
●企業B:時間的に、後に労働契約を締結
所定労働時間1日4時間(14時~18時)
上記の2社で仕事を行った場合、法定外労働時間が1時間発生します。
[計算式]5時間+4時間-8時間=1時間
そして、この1時間については、時間的に後に労働契約を締結した企業Bが法定外労働時間を発生させたことになり、割増賃金の支給を行うことになります。
労働時間の通算:割増賃金-所定外労働時間の通算
ここでは、労働時間通算の割増賃金の「所定外労働時間の通算」について解説いたします。
副業・兼業の開始後にすべきこと
「自社の所定外労働時間」と「副業・兼業先における所定外労働時間」につき、当該所定外労働が行われる順に通算します。
いずれかで所定外労働が発生しない場合
自社と副業・兼業先のいずれかで、所定外労働が発生しない場合の取扱いは、次のようになります。
[1]自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要です。
[2]自社で所定外労働があるが、副業・兼業先で所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間のみ通算します。
通算した結果で、法定労働時間を超える部分がある場合
通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合についてですが、その超えた部分が「時間外労働」となり、そのうち自ら労働させた時間について、自社の36協定の延長時間の範囲内とする必要があるとともに、割増賃金を支払う必要があります。
具体例
●企業A:時間的に、先に労働契約を締結
所定労働時間1日3時間(7時~10時)
当日発生した所定外労働2時間(10時~12時)
●企業B:時間的に、後に労働契約を締結
所定労働時間1日3時間(15時~18時)
当日発生した所定外労働1時間(18時~19時)
上記の2社で仕事を行った場合、法定外労働時間が1時間発生します。
[計算式](3時間+3時間+2時間+1時間)-8時間=1時間
そして、この1時間については、時間的に後に発生させた「企業B(18時~19時)」が法定外労働時間を発生させたことになり、割増賃金の支給を行うことになります。
労災保険の給付(休業補償・障害補償・遺族補償等)
副業・兼業において影響を受ける、さまざま制度について解説します。まずここでは、その中の「労災保険の給付」について解説します。
労災保険の原則
事業主は、労働者を1人でも雇用していれば、労働者の副業・兼業の有無にかかわらず、労災保険の加入手続を行う必要があります。
従来の考え方
労災保険制度については、労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するという性質を有しています。
そのため従来の給付額については、「災害が発生した就業先の賃金分のみ」に基づき算定されていました。
[例] ある従業員が2社で働き、以下の収入を得ていたとします。
●会社A: 月20万円
●会社B: 月15万円 ⇒ 会社Bで労働災害発生。
この場合、会社Bの賃金額(15万円)を基に、保険給付が算定されます。
改正後
複数就業者が増えている実状を踏まえ、本人たちが安心して働くことができるような環境を整備するため、法改正により、「非災害発生事業場の賃金額も合算」して労災保険給付を算定することとしました。
[例] ある従業員が上記と同じ条件で、以下の収入を得ていたとします。
●会社A: 月20万円
●会社B: 月15万円 ⇒ 会社Bで労働災害発生。
この場合、2社の賃金額計35万円(20+15万円)を基に、保険給付が算定されます。
雇用保険
副業・兼業が影響を与えるさまざまな制度のひとつに、「雇用保険」があります。
雇用保険の原則
我が国の雇用保険制度において、労働者が雇用される事業は、その業種、規模等を問わず、原則として「全て適用事業」となります。
このため、適用事業所の事業主は、雇用する労働者について、雇用保険の加入手続きを行うことになります。
ただし、同一の事業主の下で、
・1週間の所定労働時間が、20時間未満である者、
・継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
は被保険者となりません。
複数の事業主に雇用されている場合
同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な、「主たる賃金を受ける雇用関係」についてのみ、被保険者となるとされています。うした点は、従来通りです。
高年齢被保険者の特例
令和4年4月1日から、65歳以上の者を対象にして本人の申出を起点として、2つの事業所の労働時間を合算して適用する制度が実施されます。
[例]
A事業所:週所定労働時間 14時間
B事業所:週所定労働時間 10時間
上記の例では、AとBを合算して20時間以上であるため、労働者(65歳以上)の申出を起点として、雇用保険が適用されます。
社会保険
副業・兼業が影響を与える制度として「社会保険」が挙げられます。
社会保険の原則
社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所ごとに判断されます。
このため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、 労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、「適用されない」ことになります。
それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合
上記に関わらず、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合もあります。
この場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択します。
そして、当該選択された年金事務所及び医療保険者において、各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を算定し、保険料を決定することになります。
その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)することとなります。
副業の事例紹介
それでは、具体的に「副業の事例」についてみていきましょう。
事例1 “残業とあわせて月51時間以内の副業許可”
ある情報サービス大手の会社では、月最大51時間まで利用可能な副業制度を導入しました。
他社と雇用契約を結んでの副業を認めるほか、同業他社での就業についても一律に禁止とはせず、「許可制」を採用しています。
本業での残業を含めて月51時間に収めることが条件で、全社員に採用しているコアタイムなしのスーパーフレックス勤務と併せ、柔軟な働き方を可能にしました。
この副業制度は、社員が業務外の時間を有効に活用し、本業で培った技術、スキルを活かして地元や家業などに貢献する機会をつくるのが狙いです。
事例2 “就業時間内における月20時間の副業許可”
あるサーバーホスティング事業の会社では、2016年以降、“働かない制度”というユニークな制度を導入しています。
正式名称は「社員スキルアップ支援制度」で、月の上限を20時間とし、就業時間内にスキルアップへの取組みを認めるというものです。
この目的は、業務を離れて多様な経験を積んでもらい、 本業のイノベーションにつなげることにあります。
これまでに累計49人の社員が、アクセサリー制作・販売などの副業や、大学講座の受講、家業手伝いなどで活用しています。
あくまで“就業中”との取扱いのため、賃金も支払っています。
以上、2社の副業に関する取り組み事例をご紹介しました。
このように、柔軟な働き方を支援する会社が出てきています。今後も、ますます副業が浸透していくと思います。








